コーヒーの味を決める要素は、豆の産地や品種だけではありません。焙煎において「熱がどう豆に伝わるか」—— この見えない主役が、カップの風味を大きく左右しています。同じ豆を使っても、焙煎方式が変われば味はまるで別物に。その仕組みを知ると、コーヒー選びの幅がぐっと広がるはずです。
コーヒーの味を決める「見えない主役」— 熱の伝わり方

焙煎で豆に熱を伝える方法は、大きく三つに分類されます。
一つ目が「伝導」。熱したドラムの金属面に豆が直接触れることで熱が伝わる方式です。フライパンで食材を焼くイメージに近い。二つ目が「対流」。熱風を豆に当てて加熱する方式で、オーブンの温風に近い伝わり方。三つ目が「輻射(ふくしゃ)」。鋳鉄などから放射される遠赤外線による加熱で、炭火の遠赤効果と同じ原理です。
実際の焙煎機は、これらの熱伝達を組み合わせて使っています。その配分が焙煎方式の違いとなり、味わいの方向性を決定づける。豆選びと同じくらい、いやそれ以上に奥深い世界がここにあります。
対流式(熱風式)焙煎の特徴 — クリーンで繊細な味わい

対流式焙煎の代表格が、NCRが導入しているLoring S35 Kestrel。精密に制御された熱風循環システムにより、豆一粒一粒にムラなく熱を供給する焙煎機です。
対流式の最大の利点は、均一な加熱。ドラムの金属面との接触に頼らず、空気そのものを熱の媒介とするため、豆全体が同じ条件で加熱されます。その結果、焼きムラが極めて少なく、豆本来のフレーバーがクリーンに表現される。
加えて、Loring S35は特許技術「Flavor-Lock Roast Process」で煙の影響を排除。対流式のクリーンさに、さらに煙のない透明感が加わることで、産地特有の個性がダイレクトに残ります。フルーティーな酸味やフローラルな香りが鮮やかに感じられるのは、この焙煎方式ならではの魅力です。
タッチスクリーンによる0.1℃・1秒単位のPID制御で、味の再現性も抜群。浅煎りからミディアムローストにかけて、豆の繊細な個性を引き出す焙煎に特に力を発揮します。
半熱風式(伝導+対流)焙煎の特徴 — 重厚なコクと複雑な風味

一方、NCRが所有するもう一台の焙煎機、1971年製Probat UG22nは半熱風式。ドラムからの伝導熱と、送風による対流熱を組み合わせた方式です。
高品質で厚い鋳鉄ドラムが蓄える伝導熱は、豆に重厚なボディと深い甘みを与えます。遠赤外線放射により豆の芯まで火が通ることで、キャラメルやナッツのような香ばしさが引き出される。同時に、送風による対流熱が加わることで、伝導熱だけでは得られない複雑な風味プロファイルと豊かなアロマが生まれるのです。
この焙煎方式のもう一つの特徴は、焙煎士の関与度の高さ。Probat UG22nにはデジタル制御がなく、焙煎士が五感を駆使してガス圧やダンパーを手動で調整します。音、色、煙、香り—— あらゆる感覚を総動員して豆の状態を読み取る。その人間の判断が、機械では再現できない温かみのある味を生み出しています。
同じ豆でもこんなに違う — 焙煎方式別の味わい比較

具体的な味の違いを、NCR取扱い銘柄で見てみましょう。
ブラジル山口農園の場合

ミナスジェライス州セラード地域のブルボン種、ナチュラル精製。味覚チャートでは甘味4、香り3、コク2、酸味2、苦味2。
対流式(Loring)で焙煎すると、アーモンドやヘーゼルナッツのナッツ感はクリーンで透明感があり、ミルクチョコレートの甘みもすっきりと感じられます。素材そのものの味わいをストレートに楽しめる一杯。
半熱風式(Probat)で焙煎すると、同じナッツ感にキャラメルやブラウンシュガーの柔らかい甘味が厚みを増して乗ってくる。口の中に広がる余韻がより長く、温かみのある仕上がりに。
エチオピア アリーチャ村ナチュラルの場合

イルガチェフェ郡の標高1,800〜2,200m、エチオピア原種のナチュラル精製。酸味4、甘味4、香り4という華やかなプロファイル。
対流式ではジャスミンやオレンジブロッサムのフローラル香がクリアに際立ち、ブルーベリーやラズベリーのフルーツ感が鮮明に表現されます。繊細な酸味が輝くように感じられる。
半熱風式では、フルーツ感にボディの厚みが加わり、赤ワインのような重厚な果実味がより前面に。フローラル香は少し落ち着き、代わりにナチュラルプロセス由来のハチミツに似た甘味が存在感を増します。
あなたの好みに合うのはどちら?
ここまで読んでいただいて、「自分にはどちらが合うだろう」と思われたのではないでしょうか。
フルーティーな酸味やフローラルな香りを鮮明に楽しみたい方には、対流式のLoring焙煎がおすすめです。エチオピアやコスタリカなど、華やかなフレーバーを持つ銘柄との相性は抜群。
重厚なコク、キャラメルやチョコレートの甘み、ナッツの温かみを求める方には、半熱風式のProbat焙煎を。ブラジル山口農園やマンデリン エスペシャルが、その真価を発揮します。
そして、どちらも試せるのがNCRの強み。対流式と半熱風式、二つの焙煎方式を豆ごとに使い分けるからこそ、それぞれの豆のポテンシャルが最大限に引き出されている。両方を飲み比べて、自分の好みを見つけていく—— そんな贅沢な楽しみ方ができるロースターは、そう多くありません。
よくある質問

Q. 直火式焙煎との違いは何ですか?
直火式は、炎が直接ドラム内の豆に当たる方式。パンチの効いた味わいや独特の香ばしさが出やすい反面、焼きムラが生じやすく、高度な技術が求められます。半熱風式はドラムの伝導熱と送風の対流熱を組み合わせており、直火式より均一な加熱が可能。対流式(熱風式)はさらに均一性が高く、クリーンな味わいが特徴です。
Q. 家庭用焙煎機はどの方式が多いですか?
家庭用焙煎機は、熱風式(対流式)が主流です。コンパクトな設計で扱いやすく、比較的均一に焙煎できる利点があります。一部には小型のドラム式(半熱風式に近い)モデルもありますが、業務用のProbat UG22nのような厚い鋳鉄ドラムの蓄熱性は、家庭用では再現が難しい領域です。
Q. 焙煎方式は豆のパッケージに書いてありますか?
一般的には、焙煎方式までパッケージに記載しているロースターは多くありません。ただし、トレーサビリティへの関心が高まる昨今、焙煎機名や焙煎方式を公開するロースターは増えつつあります。NCRのように「どの焙煎機で焼いたか」を意識した味づくりをしているロースターの場合、商品情報やスタッフへの問い合わせで確認できることが多いでしょう。