赤ワインのグラスを傾けたときに広がる、あの重厚な果実味と複雑な香り。もしコーヒーの中にも同じような体験があるとしたら——。実は、コーヒーとワインには驚くほど多くの共通点があります。テロワール、品種、発酵、フレーバーの多層性。ワインを愛する方にこそ知ってほしい、コーヒーのもうひとつの顔をご紹介します。
ワイン好きがハマるコーヒーの世界

コーヒーとワインの共通点は、テロワール・品種・発酵・フレーバーの多層性という4つの要素です。産地の土壌や標高が味を左右する点、精製過程での発酵が風味を決める点で、両者は成り立ちの構造が似ており、ワイン好きがスペシャルティコーヒーにハマる理由になっています。
ワインとコーヒー。一見まったく異なる飲み物のようで、その成り立ちには共通する要素が数多く存在します。
テロワール。ワインで言えば土壌、気候、標高がブドウの味を決めるように、コーヒーも産地の火山性土壌、気温差、標高によって味わいが大きく変わります。同じ品種でも、育った場所が違えばまるで別の表情を見せる。
品種。カベルネ・ソーヴィニヨンとピノ・ノワールが全く異なるワインを生むように、コーヒーもブルボン種とエチオピア原種では風味特性が根本的に異なります。
発酵。ワイン造りの核心が発酵であるように、コーヒーの精製過程でも発酵が重要な役割を果たします。特に嫌気性発酵(アナエロビック)は、ワインの醸造と類似したプロセスで複雑なフレーバーを生み出す。
フレーバーの複雑さ。赤ワインを口に含んだとき、ブラックベリー、スミレ、スパイス、レザー、バニラ——と次々にフレーバーが現れるように、高品質なコーヒーもまた、温度変化とともに多層的な味わいを展開していきます。
ワインの世界で培った味覚感度と表現力は、コーヒーの世界でもそのまま活きる。だからこそ、ワイン好きがスペシャルティコーヒーにハマるのは、とても自然なことなのです。
「ワインのような」フレーバーが生まれる仕組み

コーヒーに「ワインのような」フレーバーが生まれる仕組みは、精製過程の発酵にあります。果肉を付けたまま乾燥させるナチュラル精製や、酸素を遮断した嫌気性発酵(アナエロビック)では、糖分が微生物に分解されて有機酸やエステル類が生成され、複雑な果実味と発酵感が豆に宿ります。
コーヒーに「ワインのような」フレーバーが生まれるメカニズムは、まさに発酵にあります。
ナチュラル精製の果実感
コーヒーチェリーの果肉を付けたまま天日乾燥させるナチュラル精製では、乾燥過程で自然発酵が進みます。果肉に含まれる糖分が微生物によって分解され、有機酸やエステル類が生成される。これがワインのような複雑な果実味を豆に与えるのです。赤ワインに例えるなら、果皮と一緒に醸すマセラシオンに近いプロセスではないでしょうか。
嫌気性発酵(アナエロビック)の発酵感
酸素を遮断した密閉環境で行う嫌気性発酵は、ワイン醸造におけるタンクでの発酵と原理的に類似しています。酸素がない環境では通常とは異なる代謝経路が働き、独特の有機酸やアロマ化合物が生成される。このプロセスが、わずかにワインを感じさせる複雑な発酵感の正体です。
ワインと同じく、発酵の温度、時間、微生物の種類によって仕上がりが大きく変わる——コーヒーの精製も、まさにワインメイキングのような繊細な技術が求められる領域なのです。
エチオピア アリーチャ村 — 赤ワインのような重厚な果実味

エチオピア アリーチャ ナチュラルは、標高1,800〜2,000mのイルガチェフェ郡アリーチャ村産の原種を、アフリカンベッドでナチュラル精製した中浅煎りの銘柄です。ブルーベリーやラズベリーの赤系果実の風味が赤ワインのような重厚さへと変化する、味覚チャート酸味4・甘味4・香り4の一杯です。
NOVOLD COFFEE ROASTERSのラインナップの中で、赤ワインとの共通点が最も鮮明な銘柄がエチオピア アリーチャ村 ナチュラルです。
コーヒー発祥の地エチオピア、イルガチェフェ郡アリーチャ村。標高1,800〜2,000mの高地で、庭先のニセバナナの木をシェードツリーに育つエチオピア原種。アフリカンベッドでの丁寧なナチュラル乾燥。
この豆のフレーバーノートには明確に「赤ワインのような重厚な果実味」と記されています。ブルーベリーやラズベリーを思わせる赤系果実のフルーティー感が、赤ワインのタンニンのような構造を持つ重厚さの中に溶け込んでいる。ジャスミンやオレンジブロッサムのようなフローラル香が立ち上り、ナチュラルプロセス由来のハチミツに似た濃厚な甘味が後口に心地よく残る。
味覚チャートは酸味4・甘味4・香り4・コク2・苦味1。ワインで言えば、果実味が豊かでタンニンが穏やか、アロマが華やかなピノ・ノワールのような存在かもしれません。
フルッタ アナエロビック — ワインの発酵感を宿す一杯
ブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラルは、標高1,080mのミナスジェライス州セラード地域産ブルボン種を、天然酵母による嫌気性発酵の後にナチュラル精製した浅煎りの銘柄です。チェリーやストロベリーの赤系果実の風味に、発酵由来のワインを思わせる複雑な味わいが重なります。
もうひとつ、ワイン好きに強く推薦したいのがブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラルです。
ミナスジェライス州セラード地域、標高1,080m。ブルボン種を天然酵母による嫌気性発酵の後にナチュラル精製するという独自の製法。ワインの醸造と原理的に共通する嫌気性発酵が、この豆にワインの世界観を付与しています。
チェリーやストロベリーのような鮮やかな赤系果実の風味。そして何より特徴的なのが、嫌気性発酵特有の、わずかにワインを感じさせる複雑な発酵感。柔らかい酸味がアクセントになり、ミディアムからフルボディの飲み応えが加わります。
エチオピアが「赤ワインの果実味」を体現するなら、フルッタ アナエロビックは「ワインの発酵感」を体現する存在。両者を飲み比べることで、コーヒーとワインの交差点がより鮮明に見えてくるはずです。
味覚チャートは酸味4・香り4・甘味3・コク1・苦味1。温度変化によって様々なフルーツの表情が現れるため、ワインのように時間をかけてゆっくり味わいたい一杯です。
ワインのようなコーヒーを最大限楽しむ淹れ方
ワインのようなコーヒーを最大限楽しむコツは、挽き具合をやや粗めにし、フレンチプレスなど浸漬式で抽出することです。細挽きや過抽出は苦味を強調して繊細なニュアンスを隠してしまうため、粗挽き・浸漬式・ぬるめの温度でゆっくり味わうことで果実感と発酵感が際立ちます。
挽き具合 — やや粗めに
ワインのような複雑なフレーバーを楽しむには、過抽出を避けることが大切。やや粗めの挽き具合で、果実感と発酵感をクリアに引き出します。細挽きにすると苦味が強調され、繊細なワインのニュアンスが隠れてしまいます。
浸漬式(フレンチプレス)での抽出
フレンチプレスは、コーヒーの油分や微粉がそのままカップに入るため、ワインのようなリッチなボディ感を楽しめる抽出方法です。粗挽きの豆を4分間浸漬させ、ゆっくりとプランジャーを押し下げる。ペーパードリップよりも厚みのある味わいが、赤ワインの口当たりを彷彿とさせます。
ワイングラスで飲む
少し変わった提案ですが、コーヒーをワイングラスに注いで飲んでみてください。グラスの形状が香りを集約し、フローラルな香りや果実の発酵感をより鮮明に感じ取れるようになります。視覚的にもコーヒーの液色がワインを思わせ、五感すべてで「ワインのようなコーヒー」体験を楽しめる。友人を招いた際の話題にもなるはずです。
温度変化を楽しむ
赤ワインが温度によって表情を変えるように、これらの銘柄も温度変化で味わいが七変化します。熱いうちは甘みとボディが前面に、温まるにつれ果実感と発酵感が開花し、冷めると新たなフルーツの表情が現れる。一杯に30分かけて、ワインテイスティングのようにゆっくりと楽しんでみてください。
よくある質問
コーヒーとワインのペアリングはありですか?
コーヒーとワインを同時に飲むペアリングは一般的ではありませんが、食事の中での役割分担としては面白い試みです。ディナーの前菜にワイン、食後のデザートタイムにワインのようなコーヒー——という流れは、味覚の連続性が保たれて楽しめます。また、コーヒーをカクテルの素材として使い、ワインベースのカクテルと合わせる「コーヒーカクテル」も近年注目されています。
ワインのような酸味は強いですか?
エチオピア アリーチャ村もフルッタ アナエロビックも酸味スコアは「4」です。しかし、この酸味はレモンを搾ったような鋭い酸っぱさではなく、赤ワインの酸に近い、甘みを伴ったまろやかなもの。果実の甘酸っぱさとフローラルな香りが一体となっているため、「酸っぱい」よりも「華やか」「複雑」と感じる方がほとんどです。ワインの酸味が平気な方なら、問題なく楽しめるでしょう。
アルコールは含まれていますか?
含まれていません。嫌気性発酵は微生物による代謝プロセスですが、コーヒー豆の精製段階で行われるものであり、最終的にアルコールが残ることはありません。焙煎の高温(200℃前後)でアルコール成分は完全に揮発します。ワインのような風味はあくまでフレーバーとしてのもの。ノンアルコールの飲み物として安心してお楽しみいただけます。
まとめ
コーヒーとワインの共通点は、テロワール・品種・発酵・フレーバーの多層性です。エチオピア アリーチャ ナチュラルとブラジル フルッタ アナエロビックは、赤ワインのような重厚な果実味と発酵感を体験できる代表銘柄。ぜひワイングラスで、その多層的な味わいを楽しんでみてください。


