朝のコーヒーを淹れるとき、その一杯が地球環境にどれだけの影響を与えているか、考えたことはありますか。栽培地での農作業、海を渡る輸送、そして焙煎工場でのロースト——コーヒーが手元に届くまでの各段階で、エネルギーが消費され、CO2が排出されています。
なかでも焙煎工程は、高温のガスバーナーを長時間稼働させるため、エネルギー消費が特に大きい段階の一つ。この工程を根本から変える技術が、すでに実用化されています。NOVOLD COFFEE ROASTERS(ノボルドコーヒーロースターズ)が導入しているLoring S35 Kestrelの技術を軸に、「環境に優しい焙煎」の実態に迫ります。
コーヒー1杯のカーボンフットプリントを考えたことはありますか

コーヒー1杯のカーボンフットプリントとは、栽培・精製・国際輸送・焙煎・包装・物流・抽出という一連の工程で積み上がるCO2排出量の合計を指します。なかでも焙煎は生豆を200℃以上で10〜20分間加熱し続けるため、工程全体のなかでもエネルギー消費が特に大きい段階です。
栽培地の環境問題——森林伐採や水資源の枯渇——については、フェアトレードやレインフォレスト・アライアンスなどの認証を通じて意識が高まりつつあります。ところが焙煎工程のエネルギー消費については、まだあまり語られていないのが現状ではないでしょうか。
焙煎は、生豆を200℃以上の高温で10〜20分間加熱し続ける工程。業務用焙煎機は大型のガスバーナーを使用し、排煙処理のためにさらに追加の設備(アフターバーナー)を稼働させる場合もあります。一回の焙煎で消費するエネルギーは決して小さくありません。毎日何バッチも焙煎するロースターであれば、その積み重ねは相当なものになります。
従来の焙煎機が抱える環境負荷

従来型の焙煎機が抱える環境負荷とは、焙煎室のバーナーとは別に、排煙処理用の外付けアフターバーナーをもう一つ稼働させる二重構造から生まれます。焙煎で発生する煙にはチャフの燃焼物や油分の気化物が含まれ、そのまま大気中へ放出できないため、この二基構成が一般的になっています。
つまり、焙煎に一つ、排煙処理にもう一つ。二つの熱源を同時に稼働させることになる。この構造は、エネルギー効率の観点からすれば大きなロスです。ガスの消費量が増え、それに伴うCO2排出量も増加する。
また、外付けアフターバーナーは焙煎機本体とは別に設置スペースが必要で、メンテナンスコストもかかります。環境負荷とコストの両面で、従来型の排煙処理方式には改善の余地がありました。
Loring S35が実現する燃料80%削減の革新

Loring S35 Kestrelが燃料80%削減を実現する鍵は、「Single-Burner System」という設計です。単一のバーナーだけで焙煎と排煙焼却を同時に処理するため外付けのアフターバーナーが不要になり、米Loring Smart Roast社の仕様値で従来機比最大80%の燃料削減につながっています。
従来は焙煎と排煙処理に二つの熱源が必要だったところを、一つのバーナーで完結させる。焙煎室で発生した煙は、同じバーナーの熱で即座に焼却処理される。外付けのアフターバーナーは不要です。
この革新により、従来機比で最大80%もの燃料削減を実現。80%という数字は、単にコストが下がるという話ではありません。焙煎工程で排出されるCO2が劇的に減るということ。毎日何バッチも焙煎するロースターにとって、年間で見れば途方もないエネルギー削減になります。
NCRがこのLoring S35を導入しているという事実は、味への妥協なき追求と同時に、環境への明確な意思表示でもあるのです。
サステナブルな焙煎は味も良い — 両立する理由
サステナブルな焙煎と味の良さが両立する理由は、煙を豆に触れさせないまま同じバーナーで即座に焼却するLoring S35 Kestrelの特許技術が、環境負荷の低減とクリーンな風味の両方を同時に生み出しているためです。環境配慮と美味しさは、別々の技術ではなく同じ設計から生まれる表裏の関係にあります。
Flavor-Lock Roast Process。この特許技術は、煙の影響を豆から排除することでクリーンカップを実現する技術です。煙が焙煎中の豆に触れない——それは、豆本来のフレーバーがピュアに残るということ。フルーティーな酸味やフローラルな香りが、煙にかき消されることなくカップに届く。
そして煙を即座に焼却処理する仕組みが、同時に燃料消費の大幅削減も実現している。つまり「煙を排除する」という一つの設計思想が、クリーンな味わいと環境配慮を同時にもたらしている。どちらかを犠牲にしているのではなく、どちらも同じ原理から生まれているのです。
実際にLoringで焙煎されたNCR銘柄を味わうと、そのクリーンさに驚かされます。エチオピア アリーチャ村のジャスミンのようなフローラルな香り、コスタリカ グラナディージャ農園のはちみつを思わせるやさしい甘みと余韻——繊細な味わいが鮮明に、透明に感じられる。それが「環境にも優しい焙煎」の味なのです。
産地のサステナビリティにも貢献するNCRの取り組み
産地のサステナビリティにおけるNOVOLD COFFEE ROASTERSの取り組みとは、ブラジル 山口農園の伝統的なブルボン種栽培や、エチオピア アリーチャ村のガーデンコーヒーなど、伝統的な栽培法を守る農園から適正に買い付けることです。焙煎工程の省エネと合わせ、産地と焙煎所の両輪でサステナビリティを支えています。
NCRが取り扱うブラジル山口農園は、日系生産者による共同栽培で伝統的なブルボン種を守り続けている農園。グアテマラ エルインヘルト農園は、火山性土壌の恵みを活かしながら完熟実のみの手摘みと山からの湧き水を利用した伝統的製法を継承しています。エチオピア アリーチャ村では、庭先でコーヒーを育てる「ガーデンコーヒー」スタイルが続いている。
こうした農園から厳選された豆を買い付け、適正な評価をすること。それが産地の持続可能な栽培を支えることにつながります。環境だけでなく、社会的なサステナビリティにも目を向ける。
1932年創業から94年(2026年8月時点)、三代目焙煎士・櫻井健司が焙煎を担うNCR。その品質を支えるのは、産地との真摯な向き合い方と、環境負荷を最小化する焙煎技術の両輪です。
よくある質問
サステナブルなコーヒーは価格が高くなりますか?
Loring S35のような高効率焙煎機は導入コストこそ高いものの、日々の運用では燃料費が大幅に削減されます。そのため、長期的にはコスト面でもメリットがあり、必ずしも「環境配慮=高価格」にはなりません。もちろん、高品質なスペシャルティコーヒー自体がコモディティコーヒーより高い価格帯にはなりますが、それは環境配慮のコストではなく、品質への正当な対価です。
焙煎以外にどんな環境配慮がありますか?
コーヒー産業全体では、シェードグロウン(木陰栽培)による生態系保全、水使用量の削減、有機農法の推進、フェアトレードによる生産者への適正対価など、さまざまな取り組みが進んでいます。NCRが取り扱うエチオピア アリーチャ村のガーデンコーヒーは、ニセバナナの木をシェードツリーとして活用する伝統的な栽培方法で、環境との共生を体現しています。
消費者としてできることはありますか?
まずは「自分が飲んでいるコーヒーがどこから来て、どう焙煎されているか」に関心を持つこと。それだけでも大きな一歩です。環境に配慮した焙煎を行うロースターの豆を選ぶ、必要な分だけ購入して廃棄を減らす、ドリップ後の粉を堆肥にするなど、日常のなかでできることは少なくありません。一杯のコーヒーから始まる小さな選択が、積み重なって大きな変化をつくります。



