「ブルーベリーの味がするコーヒーがある」と聞いて、半信半疑になった方へ。エチオピア アリーチャ ナチュラルは、その噂がだいたい本当だったと確かめられる一杯です。ジャスミンのような花の香り、桃を思わせる甘さ、そしてベリー系の果実感。苦さやコクで押してくるタイプではなく、香りと明るい酸が主役になります。コーヒーの輪郭がふだんと違って見える、そういう豆です。

ブルーベリーと花の香りは、どの瞬間に立ち上がるか

一口目より前、カップを口元に運ぶ段階で香りが来ます。ジャスミンやオレンジブロッサムのような、花の側の香り。ここで「いつものコーヒーと違う」と気づく方が多いはずです。口に含むと、ブルーベリーを思わせる赤い果実感が最初に広がります。
中盤で顔を出すのが桃です。花の香りが少し引いたあとに、熟した果実の甘さが乗ってくる。ナチュラル精製由来の、蜜に近い濃度のある甘さです。酸味は明るく、けれど尖ってはいません。ベリーの甘酸っぱさに近い方向で、レモンのような鋭さとは別物。苦味とコクはごく控えめなので、全体としては軽やかにまとまります。
冷めたときが、この豆のいちばん面白い時間かもしれません。温度が下がるほど果実感がはっきりしてきて、フルーツティーに近い印象になります。淹れたてで飲みきってしまわず、少し置いてもう一口。そのくらいの余裕を持って向き合いたい豆です。
余韻には、花の香りがもう一度戻ってきます。重さを残さず、すっと消えていく引き際。飲み終えたあとに口のなかがすっきりしているのも、この豆の性格です。
エチオピア アリーチャ ナチュラルの豆のプロフィール(早見表)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 産地 | エチオピア |
| 地域 | ゲデオ・ゾーン イルガチェフェ郡 アリーチャ村 |
| 生産者 | アリーチャ・ウォッシング・ステーション周辺の小規模農家群(ガーデンコーヒー方式) |
| 標高 | 1,800m〜2,000m |
| 品種 | エチオピア原種(在来種/Heirloom) |
| 精製 | ナチュラル(アフリカンベッドでの乾燥) |
| 焙煎度 | 中浅煎り |
| 推奨抽出 | ハンドドリップ:豆15g/湯250ml(1:16.5)/90℃/蒸らし45秒/合計3:00 | 挽き目:中細挽き |
産地はイルガチェフェ郡アリーチャ村、標高1,800m〜2,000m

エチオピアは、コーヒーの発祥地とされる国。その南部、ゲデオ・ゾーンに属するイルガチェフェ郡は、コーヒーの世界では地名がそのまま味の代名詞になっている地域です。この豆が育つのは、そのなかのアリーチャ村。標高は1,800m〜2,000mです。
高地では昼と夜の気温差が大きくなり、チェリーの成熟がゆっくり進みます。イルガチェフェのコーヒーに共通する花の香りと明るい酸は、この標高と気温差を土台にしています。
精製方法そのものの違いを知りたい方は、コーヒーの精製方法を全解説 — ナチュラル・ウォッシュド・ハニー・スマトラ式・アナエロビックの味の違いもあわせてどうぞ。
誰がどう作っているか|庭で育つガーデンコーヒーと在来種

アリーチャ村のコーヒーは、「庭」で育ちます。作り手はアリーチャ・ウォッシング・ステーション周辺の小規模農家群。広大なプランテーションではなく、農家が暮らす家の庭先に、コーヒーの木が静かに伸びている。エチオピアでガーデンコーヒーと呼ばれる栽培のかたちです。
そばに植わっているのは「ニセバナナ」と呼ばれる植物。名前にバナナと付きますが実は食べられず、根や茎を蒸して食べる、この地域の主食のひとつです。そしてコーヒーの木にとっては、ちょうどよい日陰を作ってくれる存在でもあります。この庭先での育て方そのものを掘り下げたのが、エチオピアのガーデンコーヒー|農家の庭先で育つ世界最高峰のフレーバーとはです。
品種はエチオピア原種(在来種/Heirloom)。「ブルボン」や「ティピカ」のように一つの名前で呼びきれないほど遺伝的な多様性があり、一本一本の木が少しずつ違う個性を持っています。それらが混ざり合うことで、単一品種にはない複雑さが生まれます。
精製はナチュラル。収穫したチェリーを果肉ごと、アフリカンベッド(地面から離した棚状の乾燥台)に広げて乾かします。果肉をつけたまま乾かすので、果実の甘さと香りの成分が豆に移っていく。ブルーベリーや桃として感じられる要素の出どころは、ここにあります。この乾燥台がなぜ品質を左右するのかを掘り下げたのが、アフリカンベッドがコーヒーの品質を高める理由。
品種と産地と焙煎がどう味に効いてくるかは、コーヒー豆の品種・産地・焙煎の関係|種類で変わる味と香りのガイドで整理しています。
NOVOLD の焙煎|Loring S35 Kestrel と中浅煎り

NOVOLD はこの豆を Loring S35 Kestrel で中浅煎りに焼いています。Loring は、単一のバーナーで焙煎と排煙焼却を同時に行う特許技術「Flavor-Lock Roast Process™」を備えた焙煎機。焙煎中の煙による風味への影響を抑える設計です。
方式は対流式。精密に制御された熱風を焙煎ドラム内で循環させて豆を加熱します。豆一粒一粒に均一に熱が入るため、豆ごとの焼きムラも、豆の内側と外側の焼きムラも排除される設計です。操作はタッチスクリーン式で、温度・時間・ファン速度を0.1℃、1秒単位で自動制御(PID制御)。一度決めた焙煎レシピを、バッチが変わっても同じようになぞれます。着地点は中浅煎りです。

焙煎を担当するのは、三代目の焙煎士・櫻井健司。NOVOLD には性格の異なる二台の焙煎機があり、深く焼き込む豆はドイツ製・1971年製の Probat UG22n が受け持ちます。この豆は Loring で中浅煎りに仕上げています。二台の詳細はProbat UG22n × Loring S35 Kestrelのページにまとめました。
いちばん美味しく淹れる|90℃・中細挽きの数値レシピ

ハンドドリップの基準はこちらです。豆15g/湯250ml(比率1:16.5)/湯温90℃/挽き目は中細挽き/蒸らし45秒/合計3分00秒。湯量が多めなのは、この豆の香りを薄めずに、口当たりを軽く保つためです。
蒸らしは45秒としっかりめに取ってください。粉全体が湿るまで湯を落として待つと、花と果実の香りが立ち上がってきます。あとは中心から外へ渦を巻くように、湯面を切らさないペースで注ぎ、3分00秒で落としきる想定です。
湯温90℃は上げすぎないことが肝心。高すぎると酸が尖り、低すぎると甘さが出きらず輪郭がぼやけます。酸が強いと感じたら1〜2℃下げてみてください。
アイスにするのもおすすめです。急冷式、つまり氷を入れたサーバーに直接落とす淹れ方にすると、果実感が締まって、フルーツジュースに近い印象になります。暑い日の一杯として、この豆はかなり強い。
合わせたい食べ物と、飲む時間

花の香りと果実の甘さが主役で、苦味とコクは控えめ。この輪郭から合わせる相手を考えると、方向はわりとはっきりします。
ひとつめはベリーを使った焼き菓子。ブルーベリーのマフィンやフランボワーズのタルトのように、カップの果実感と同じ方向のものは素直に重なります。ふたつめは柑橘系のお菓子。レモンケーキやオレンジピールのチョコレート。明るい酸同士がぶつからず、香りが伸びます。みっつめはフレッシュチーズ。リコッタやマスカルポーネのような塩気の穏やかな乳製品と合わせると、果実の甘さが引き立ちます。一方、濃いミルクや砂糖を足す飲み方には向きません。
飲む時間は、休日の午前がいちばん似合います。急がずカップに向き合える時間帯に置くと、香りの変化を最後まで追えます。午後、甘いものを一緒に楽しむ時間にも。
他の銘柄とどう違うか|飲み比べで見える立ち位置
アリーチャがどのあたりに立っている豆なのかは、他の銘柄と並べるとはっきりします。
ひとつはブラジル 山口農園|ブルボン種ナチュラルが生むナッツとチョコの甘さ。同じナチュラル精製でも、行き先は正反対です。酸味は山口農園がはっきり控えめなのに対し、アリーチャは明るい酸が前に出る側。甘さの質も違って、山口農園はキャラメルやブラウンシュガー系、アリーチャは果実と蜜の甘さです。コクは山口農園のほうが丸みがあり、アリーチャは軽やか。毎日の定番を探すなら山口農園、香りを楽しむ一杯ならアリーチャ、という選び分けになります。
もうひとつはブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラル|ワインのような香りの正体。こちらも華やかな系統ですが、香りの出どころが違います。フルッタは嫌気性発酵(アナエロビック)由来のワインのような香りとベリー感、アリーチャは花と桃。酸味はどちらも明るく、甘さはフルッタが発酵の複雑さを含む方向、アリーチャは素直な果実の甘さです。コクはフルッタのほうが厚みがあります。個性の強さで選ぶならフルッタ、香りの澄んだ軽やかさで選ぶならアリーチャ。
逆に言えば、酸味をできるだけ避けたい方、しっかりした苦味とコクで飲みたい方には向きません。ミルクや砂糖を入れる前提の方にも、この豆の良さは伝わりにくいはずです。ブラックで香りを追いながら飲む、そういう飲み方をする日の豆だとお考えください。
どれが自分に合うか迷ったら、100gずつ3種を選べるお試しパックから始めるのが早道です。なお、こちらはお一人様2回までのご購入とさせていただいています。
よくある質問
Q. アリーチャはどんな人に向いていますか? どんな人には向きませんか?
フルーティーなコーヒーを試してみたい方、香りの幅を広げたい方に向いています。苦味とコクが控えめなので、「コーヒーの苦さ」が得意でない方にも入りやすい豆です。一方で、酸味が苦手な方、どっしりした飲みごたえを求める方、ミルクを入れて飲みたい方には向きません。
Q. どんな品種・精製方法のコーヒーですか?
品種はエチオピア原種(在来種/Heirloom)、精製はナチュラルで、アフリカンベッドで乾燥させています。特定の品種名がつかないほど遺伝的な多様性があるのが在来種の特徴で、味の複雑さはここから来ています。
Q. 本当にブルーベリーの味がするのですか?
果汁や香料を加えているわけではありません。在来種の性質とナチュラル精製が重なって、自然にベリーを思わせる風味が生まれます。感じ方には個人差がありますが、湯温90℃・中細挽きで淹れて、少し冷めてからもう一口、という順で試してみてください。
Q. 200gでどのくらい飲めますか?
1杯あたり豆15gで淹れる計算なら、200gでおよそ13杯分。毎朝1杯のペースなら、2週間ほどのおつきあいになります。
NOVOLD COFFEE ROASTERSの強みは、性質の異なる二台の焙煎機を豆ごとに使い分ける「温故知新」の哲学にあります。
ドイツ製の Probat UG22n が受け持つのは、深く焼き込んだ豆の厚みのある味わい。
最新鋭 Loring S35 Kestrel は、精密な熱風制御で焙煎ムラを抑え、煙の影響を排した焙煎を行う設計です。
新旧二機を三代目・櫻井健司が焼き分け、浅煎りから深煎りまで、それぞれの豆が持つ最良の表情を引き出します。




