「アイスコーヒーには深煎り」。長く定番だった組み合わせですが、選べる豆が増えた今は前提のほうが変わりました。この記事が扱うのは豆選びだけです。淹れ方の手順は既存の4記事に譲ります。味の傾向から銘柄を決める道筋と、何グラムをどの挽き目で買うか。徳島で焙煎しているNOVOLD COFFEE ROASTERSが整理します。

結論|アイスコーヒーの豆は、焙煎度ではなく味の傾向で選ぶ
急冷式は湯で抽出してから氷で冷やすので、熱で開いた香りと酸がそのまま残ります。水出しは冷水に長く漬けるぶん、苦味や渋みが控えめになり、甘味とコクが前に出る。同じ「アイスコーヒー」でも、グラスに届くものが違います。だから選ぶ豆も変わる。焙煎度をひとつに決め打ちする必要はありません。その豆が持つ味の傾向から、どちらの淹れ方へ回すかを決めるほうが早い。NOVOLDのシングルオリジン6種には、コク・酸味・苦味・甘味・香りを0〜5で示したチャートがあり、これが振り分けの物差しになります。
「深煎りでなければ」という前提を外す
深煎りが定番になったのには理由があります。氷で薄まっても味が残るから。ただしそれは、薄まることを前提にした安全策です。急冷式なら湯量を絞って濃く落とせますし、受ける氷の量も先に決められる。水出しも8〜12時間という時間で濃度を作れます。薄まる幅が読めているなら、浅い側の豆でも十分に持つ。深煎りが向かないという話ではなく、選択肢が深煎りだけではない、という話です。
淹れ方が違えば、豆から出るものが変わる
豆を決める前に、自分がどちらの淹れ方をするかを決めておくと迷いが減ります。1回に使う量も挽き目も、まるごと違うからです。
| 淹れ方 | 粉と液体 | 挽き目 | 温度・時間 |
|---|---|---|---|
| 急冷式 | 粉20g:湯130〜150ml(氷100〜120gを入れたサーバーへ直接落とす) | 中挽き〜中細挽き | 85〜90℃・1分30秒〜2分 |
| 水出し | 粉40g:水500ml | 粗挽き | 冷蔵庫で8〜12時間 |
どちらも1回ぶんの分量です。急冷式はグラス1杯、水出しは500mlのポット1本。なお急冷式の湯量・湯温・氷は焙煎度で組み合わせが決まっていて、浅い側が130ml・90℃前後・氷100g、深い側が150ml・85℃・氷120gです。手順そのものはこの記事の担当ではないので、水出しの数値の出どころは水出しコーヒーの抽出時間は何時間?(8〜12時間と焙煎度別の目安)、急冷式の注ぎ方はアイスコーヒーの作り方(急冷式レシピの基準は粉20g・氷100〜120g)をどうぞ。
急冷式|熱で開いた香りを、そのまま冷やす
85〜90℃の湯は、香りの成分まで短い時間で引き出します。その液体を氷へ落として温度だけ一気に下げるので、湯で開いたものが冷たいまま届く。香りと酸の数値が高い豆ほど、差がはっきり出ます。
水出し|冷蔵庫で8〜12時間、出てこないものがある
冷水では、苦味や渋みにつながる成分が溶け出しにくい。8〜12時間かけても角が立たないのはそのためです。裏を返せば、熱があってこそ立つ華やかな香りは控えめになる。残るのは甘味と、口に感じる厚みのほうです。冷蔵庫で漬けるのは、味の再現性と衛生の両方のため。
6種を0〜5で並べる|どちらの淹れ方に振るか
NOVOLDのシングルオリジン6種を5つの軸で並べたものが下の表です。銘柄の順番は、振り分けの順に組み替えてあります。
| 銘柄 | コク | 酸味 | 苦味 | 甘味 | 香り | 振り分け |
|---|---|---|---|---|---|---|
| エチオピア アリーチャ ナチュラル | 2.0 | 4.0 | 1.0 | 4.0 | 4.0 | 急冷式 |
| ブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラル | 1.0 | 4.0 | 1.0 | 3.0 | 4.0 | 急冷式 |
| コスタリカ グラナディージャ | 2.0 | 2.0 | 1.0 | 3.0 | 3.0 | どちらにも |
| グアテマラ エルインヘルト | 3.0 | 2.0 | 2.0 | 3.0 | 3.0 | どちらにも |
| ブラジル 山口農園 | 2.0 | 2.0 | 2.0 | 4.0 | 3.0 | 水出し |
| インドネシア マンデリン エスペシャル | 4.0 | 1.0 | 3.0 | 2.0 | 3.0 | 水出し |
急冷式に振る|エチオピア アリーチャ ナチュラルと、ブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラル

香り4.0が付いているのは、6種のうちこの2つだけ。湯で引き出したものを氷で止める急冷式は、この数値をほぼそのまま出口へ運びます。
エチオピア アリーチャ ナチュラルは、酸味4.0・甘味4.0・香り4.0。産地はイルガチェフェ郡アリーチャ村。エチオピア在来種を、アフリカンベッドと呼ばれる乾燥棚の上でナチュラル精製しています。標高1,800〜2,000m。ジャスミンと桃、フルーティーでフローラル。ミディアムボディに明るく爽やかな酸味、長い余韻。酸と甘さが同じ高さで並ぶので、水が入ったときに真っ先に失われるものが少なくて済みます。
もう一方のブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラル。酸味4.0・香り4.0で、チェリーやラズベリーといった赤系果実に、ワインを思わせる発酵感。奥にキャラメルとヘーゼルナッツ。ポルトガル語で「フルーツ」を意味する名前のとおりで、ブラジルらしくないブラジルと呼びたくなります。急冷式で香りが立ったところを冷やすと、この発酵感が追いやすい。
どちらにも振れる|コスタリカ グラナディージャ、グアテマラ エルインヘルト
この2種は5軸の山が小さく、どの数値も1.0から3.0に収まります。突出がないぶん、どちらの淹れ方でも破綻しない。1袋を両方の方式で試したいなら、ここから選ぶのが安全です。
コスタリカ グラナディージャは、甘味3.0・香り3.0で苦味は1.0。ハチミツの甘味とフローラルな香り、ミディアムボディ、明るくクリーンな酸味。品種はカトゥアイ、イエローハニー精製、標高1,850〜1,950m。タラスエリアのドタ・バレー、昼夜の気温差が大きい場所で、実がゆっくり熟します。
グアテマラ エルインヘルトは、コク3.0に対して酸味2.0。確かなボディに、ワインを思わせるほのかなアロマ。酸は明るくクリアな範囲に収まります。ウエウエテナンゴ県、標高1,500〜2,000m、ウォッシュド精製。ブルボン70%とカトゥアイ30%。急冷式ではアロマが、水出しではボディが前に出ます。
水出しに振る|ブラジル 山口農園、インドネシア マンデリン エスペシャル

冷水が残すのは甘味と厚みです。甘味4.0の山口農園と、コク4.0のマンデリンは、この残り方と噛み合います。
ブラジル 山口農園は甘味4.0で6種の最高タイ、酸味は2.0と控えめ。キャラメル、ブラウンシュガー、ミルクチョコ。甘さとコク、優しい後味。ブラジルへ渡った日系人の生産者が共同運営する農園で、伝統のブルボン品種を自然乾燥のナチュラル精製で守っています。ミナスジェライス州セラード地域、標高940m。
インドネシア マンデリン エスペシャルは、コク4.0・苦味3.0・酸味1.0。チョコレートとブラウンシュガー、フルボディ。乾燥を二段階に分けるスマトラ式が、アーシー感とスパイス感を連れてきます。スマトラ島北部の指定農家からの買い付け、標高1,300m。牛乳で割る前提なら、この一本です。
二つの焙煎度が1袋に入る|ノボルドエスペシャル
ここまで味の傾向で見てきましたが、このブレンドだけは焙煎度から話せます。深煎りにしたブラジル・コロンビア・グアテマラのブレンドが土台で、担当はProbat。そこへ少し、Loringで焼いた浅煎りのエチオピア アリーチャが入ります。1袋の中に、深い側と浅い側が同居している。
だから、同じ1袋を急冷式と水出しの両方へ回してみると面白い。急冷式では加えられた浅煎りの華やかさが先に立ち、水出しでは深煎りの甘さと厚みが土台として残ります。二つの焙煎度で味の出方がどう違うのかを、いちばん短い距離で比べられる一袋です。
精製方法から逆算する|同じ「甘い」でも出どころが違う
5軸の数値が近くても、その味がどこから来ているかは豆ごとに違います。手がかりが精製方法――収穫した実から生豆を取り出すまでの工程です。
ナチュラル|果肉をつけたまま乾かす
実をそのまま乾かし、あとから果肉と種を分ける方法。果肉をまとったまま乾かすぶん、甘さと果実感が乗りやすい。この6種では、甘味4.0が付いた2つ、ブラジル 山口農園とエチオピア アリーチャ ナチュラルが、どちらもナチュラル精製です。ただし山口農園は自然乾燥の伝統的な製法、アリーチャは棚の上での天日干し。同じナチュラルでも、片方はキャラメルの甘さに、もう片方はフルーツの甘さに出ます。
ウォッシュドとハニー|クリアな酸が残る
ウォッシュドは、果肉を除いて水で洗ってから乾かす方法です。雑味が減り、豆の持つ酸の輪郭が素直に出る。グアテマラ エルインヘルトがこれで、5軸の酸味は2.0と高くありませんが、その2.0がにごらずに見えます。
ハニープロセスは、果肉を除いたあと粘液質を残したまま乾かす中間の方法。残し方によって呼び名が変わります。コスタリカ グラナディージャのイエローハニーがそれ。ハチミツの甘味と明るくクリーンな酸味が同居するのは、この位置取りからです。
発酵と乾燥で変える|アナエロビックとスマトラ式
アナエロビック(嫌気性発酵)は、酸素を遮った容器の中で発酵させる工程を挟む方法です。ブラジル フルッタは、コーヒーが本来持つ天然酵母を活用する独自の発酵製法を現地の生産者と共同開発したもので、この製法はブラジルにて特許出願中。酸味4.0・香り4.0という数値と、あの発酵感は、この工程から来ています。
スマトラ式は、乾燥を二回に分ける方法。インドネシア マンデリン エスペシャルの重さとアーシー感を作っているのが、この二段階です。
何グラム買うか|100gと200gの使い切り方

豆が決まったら、次は量です。1回に使う量が淹れ方で倍違うので、同じ100gでも減り方が変わります。
| 袋 | 急冷式(1杯=粉20g) | 水出し(1回=粉40g/水500ml) |
|---|---|---|
| 100g | 5杯 | 2回半 |
| 200g | 10杯 | 5回 |
100gは、味の方向を確かめるための量です。急冷式に振る豆と水出しに振る豆を1種ずつ、迷ったらどちらにも振れる豆をもう1種。この3本立てで合わせて300g。急冷式なら15杯、水出しなら7回半に相当します。方向が決まったら、同じ豆を200gで。
挽き方は注文時に決める|1袋を両方に使うなら
オンラインストアでは、注文の段階で挽き方を選べます。粗挽きから細挽きまでの4段階と、挽かずに豆のまま。水出しなら粗挽き、急冷式なら中細挽きが基準です。
迷うのは、1袋を両方に使いたいときでしょう。粗挽きで受け取れば急冷式が薄くなり、中細挽きで受け取れば水出しが濃く出すぎる。どちらかへ寄せるより、豆のままで買って都度挽くのが答えになります。
セットで頼む場合は条件がもう一つ。飲み比べセットもお試しパックも、挽き方は3袋共通で選ぶ形です。挽いた状態で頼むなら、3種を同じ淹れ方で並べて比べる形になります。豆の違いだけを見たいときは、むしろこのほうが条件が揃う。豆のままを選べば、3種を急冷式と水出しへ振り分けられます。まとめて仕込む日のポットは水出しコーヒーメーカーの選び方(ポットの方式とおすすめ5モデル)で比較しています。
よくある質問(FAQ)
Q:深煎りでないとアイスコーヒーは物足りませんか
A:そんなことはありません。深煎りが定番になったのは、氷で薄まっても味が残るという安全策の面が大きいからです。いまは薄まる幅そのものを湯量と時間で管理できるので、焙煎度より先にチャートの数値を見るほうが近道になります。
Q:酸味が苦手です。どの銘柄を選べばいいですか
A:チャートの酸味の列を見てください。いちばん低いのは1.0のインドネシア マンデリン エスペシャル。次が2.0で並ぶブラジル 山口農園、コスタリカ グラナディージャ、グアテマラ エルインヘルトです。甘味4.0の山口農園なら、酸の低さと飲みやすさが両立します。
Q:同じ豆を急冷式と水出しの両方で使えますか
A:使えます。変えるのは挽き目だけ。急冷式は中挽き〜中細挽き、水出しは粗挽きです。両方を行き来するつもりなら、豆のまま買って都度挽くのがいちばん自由が利きます。
Q:浅煎りの豆を水出しにするときは何か変えますか
A:時間で調整します。浅い側は12〜14時間まで伸ばすのが目安。理由も含めた焙煎度ごとの一覧は水出しコーヒーの抽出時間は何時間?(8〜12時間と焙煎度別の目安)にまとめてあります。
Q:ミルクで割るならどの豆が向きますか
A:コク4.0のインドネシア マンデリン エスペシャルか、深煎りが土台のノボルドエスペシャル。厚みのある豆はミルクに埋もれにくいからです。比率や割り材の選び方は水出しコーヒーの保存期間は2〜3日(容器の選び方と割り方アレンジ)へ。
Q:氷で薄まりにくい豆はありますか
A:チャートで甘味や酸味に4.0が付く銘柄は、水が入っても輪郭が残りやすい側です。エチオピア アリーチャ ナチュラルとブラジル 山口農園が候補になります。氷の大きさや湯量そのものの調整はアイスコーヒーの作り方(急冷式レシピの基準は粉20g・氷100〜120g)に整理してあります。
目的別|次に読む記事
- 水出しコーヒーの抽出時間は何時間?(8〜12時間と焙煎度別の目安)|粉40g:水500ml、冷蔵庫で8〜12時間。この記事の水出しの数値はここから引いています。
- アイスコーヒーの作り方(急冷式レシピの基準は粉20g・氷100〜120g)|粉20gから氷の落とし方まで、急冷式の手順はこちら。
- 水出しコーヒーメーカーの選び方(ポットの方式とおすすめ5モデル)|まとめて作る日のポットと方式の選び方。
- 水出しコーヒーの保存期間は2〜3日(容器の選び方と割り方アレンジ)|淹れたあとの持たせ方と、ミルクや炭酸の比率。
振り分けるという、夏の遊び
豆を選ぶ作業は、正解を当てることではないと思っています。この袋は湯と氷へ、この袋は冷蔵庫へ。当たっていても外れていても、グラスの中で答え合わせができる。外したほうが翌日の一杯を楽しみにさせることさえあります。
6種のうち、今年の夏に空けた袋は何本になるか。9月に残りを並べ直すころには、自分がどちらの淹れ方の人間なのか、なんとなく見えてくるはずです。
徳島ブラジルコーヒ店の創業は1932年。そこから94年、徳島県・マリンピア沖洲の焙煎所には二台。ドイツ Probat 社の UG22n(1971年製)と、四国で唯一の導入となる Loring S35 Kestrel。どちらで焼くかは豆が決めます。三代目の櫻井健司(コーヒーインストラクター1級)が生豆を見て、機械を選ぶ。NOVOLD COFFEE ROASTERSという名は、ポルトガル語のNOVO(新しい)と英語のOLD(古い)を並べたものです。










