アイスコーヒーを、今日ぶんだけ、数分で。急冷式は濃いめに淹れたコーヒーを氷へ落とし、一気に冷やす方法です。基準は粉20gに湯130〜150ml、受ける氷は100〜120g。この記事で扱うのは急冷式だけです。焙煎度による湯量と湯温の出し分けから、注ぎ方、氷と挽き目の決め方まで、NOVOLD COFFEE ROASTERS(徳島の焙煎所)が整理した基準値で順に並べます。
結論|急冷式は「濃く淹れて、氷に落とす」
急冷式とは、湯で濃いめに抽出した液体を、氷にあてて温度だけ落とす淹れ方。湯を使うぶん香りが立ちやすく、その状態のまま冷たい一杯まで持ち込めます。使う数値は7つだけです。
| 項目 | 基準値 | 補足 |
|---|---|---|
| 粉 | 20g | グラス1杯ぶん |
| 湯 | 130〜150ml | 焙煎度で出し分ける |
| 湯温 | 85〜90℃ | 深い側ほど低く |
| 氷(サーバー) | 100〜120g | 抽出液を受ける側の氷 |
| 挽き目 | 中挽き〜中細挽き | 水出しより細かく |
| 蒸らし | 30秒 | 焙煎度を問わず共通 |
| 総抽出時間 | 1分30秒〜2分 | 蒸らしを含み、落ち切りまで |

薄い・重いと感じた日の犯人は、たいていこの表の中にいます。粉を増やすのは、七つの数値を確かめてからでも遅くありません。
急冷式と水出しは、時間の使い方が違うだけ
水出しは冷水で8〜12時間かけ、急冷式は85〜90℃の湯で2分前後。着地はどちらも冷たい一杯ですが、成分の出方が違います。熱い湯は香りの成分まで一息に引き出す一方、渋みも出やすい。だから湯温を下げ、湯量を絞ります。
待てる日の仕込み方は、水出しコーヒーの抽出時間は何時間?(8〜12時間と焙煎度別の目安)に基準がまとめてあります。
焙煎度別レシピ|湯量・湯温・氷を出し分ける
粉20gは共通。動かすのは湯の量、湯温、受ける氷の量の3つ。挽き目も、深い側で半歩だけ細かくします。
| 焙煎度 | 粉 | 湯 | 湯温 | 氷(サーバー) | 挽き目 |
|---|---|---|---|---|---|
| 浅煎り〜中煎り | 20g | 130ml | 90℃前後 | 100g | 中挽き〜やや細め |
| 中深煎り〜深煎り | 20g | 150ml | 85℃ | 120g | 中細挽き |
蒸らし30秒と総抽出時間1分30秒〜2分は、どちらの設定でも変わりません。
浅煎り〜中煎り|湯130ml・90℃・氷100g
湯を130mlに絞り、温度は90℃前後。浅い側の豆は成分が出にくいので、湯を減らして濃度を確保します。受ける氷も100gに抑え、溶けた水で薄まる余地を小さくしておく。仕上がりは小ぶりのグラス1杯ぶんです。
中深煎り〜深煎り|湯150ml・85℃・氷120g
湯は150mlまで増やし、温度は85℃へ落とします。深い側は少ない湯でも濃く出るぶん、90℃のままだと苦味と渋みが前に来る。温度を下げて湯を増やすと、濃度を保ったまま角が取れます。氷は120g。
なぜ焙煎度で数値を変えるのか
焙煎が進んだ豆ほど組織がもろくなり、短い時間でも成分が出てきます。深い側で湯温を85℃まで落とすのは、この出足の早さを抑えるため。浅い側は逆に組織が締まったままなので、90℃の湯を少なめに使って濃度を作ります。同じ2分でも、豆の条件がまったく違うわけです。
1杯に20g。100gの袋なら5杯ぶんです。浅い側と深い側の両方を試すなら、性格の違う3種を100gずつ。15杯を淹れ切るころには、自分の基準が決まっています。
手順|氷の上に落とす3ステップ

用意するもの
- コーヒー粉:20g(中挽き〜中細挽き)
- 湯:130〜150ml(焙煎度で決める)
- 氷:100〜120g(サーバーに入れるぶん)
- 円錐型のドリッパーとペーパーフィルター
- 耐熱ガラスのサーバー、細口のケトル
Step1|サーバーに氷を入れ、ドリッパーを載せる
順番は氷が先。サーバーへ100〜120gを入れ、その上にドリッパーを直接載せます。落ちた液体はその瞬間から冷え始める。淹れ終わってからグラスへ移す形だと、冷えるまでに一拍遅れます。粉をならして表面を平らにしたら、準備は完了です。
Step2|30秒蒸らす
湯温を合わせ、粉全体が湿るぶんだけ注ぎます。目安は30ml前後。粉が膨らんでいる30秒のあいだにガスが抜け、湯の通り道ができます。ここで注ぎすぎると蒸らしにならず、抽出が始まってしまう。落ちる滴が数滴なら、量はちょうどいい。
Step3|2〜3回に分けて注ぎ切る(合計1分30秒〜2分)
残りの湯を2〜3回に分け、中心から外へ円を描くように。湯面が落ち切る手前で次を注ぎます。蒸らしを含めて1分30秒〜2分で終わるのが目安です。
粉20gに対して、湯は130〜150ml。粉の層を通り抜ける湯が少ないぶん、落ち切るまでの時間も短くなります。2分30秒まで引っ張るには注ぐ手を意図的に遅らせることになり、粉の層に湯が留まって渋みに倒れます。
仕上げ|グラスの氷は新しいものに
抽出が終わったとき、サーバーの氷はほとんど液体になっています。飲むグラスには別の氷を用意して、そこへ注いでください。レシピの100〜120gはサーバー側の数字で、グラスに入れる氷は勘定に入れません。
氷と挽き目が、最後の味を決める
氷は、少なく大きく
同じ100gでも、小粒の氷ほど早く溶けます。溶けた水はそのまま濃度に効くので、粒が小さいと冷え切る前に薄まってしまう。製氷皿でできる氷なら、できる範囲で大きいものを。数を減らして粒を大きくするほうが、最後まで味が残ります。
水出しより細かく挽く
湯と粉が触れているのは2分前後。水出しの8〜12時間と比べれば、ほんの一瞬です。この短さを粒の細かさで埋める、というのが急冷式の挽き目の考え方。中挽き〜中細挽きが基準で、深い側ほど細かい方向へ寄せます。粗すぎると、氷が溶けたぶんだけ水っぽくなります。
ミルがなくても、中細挽きは手に入る
ミルが手元になくても大丈夫。挽き方は注文の段階で選べます。急冷式なら中細挽き、浅い側の設定で淹れるなら中挽きを。豆のまま買って自分で挽く道もありますが、最初は挽いた状態で受け取り、湯量と温度だけを追うほうが早く決まります。
味の傾向で選ぶ|急冷式で映えるのは酸味と香り

急冷式は、熱い湯で引き出したフレーバーをそのまま冷やして閉じ込める方式です。ホットで感じる個性が、冷たい一杯にも残る。だから、酸味と香りの数値が高い豆ほど輪郭がはっきり出ます。NOVOLDのシングルオリジン6種を、0〜5のフレーバーチャートで並べてみます。
| 銘柄 | コク | 酸味 | 苦味 | 甘味 | 香り |
|---|---|---|---|---|---|
| ブラジル 山口農園 | 2.0 | 2.0 | 2.0 | 4.0 | 3.0 |
| ブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラル | 1.0 | 4.0 | 1.0 | 3.0 | 4.0 |
| コスタリカ グラナディージャ | 2.0 | 2.0 | 1.0 | 3.0 | 3.0 |
| エチオピア アリーチャ ナチュラル | 2.0 | 4.0 | 1.0 | 4.0 | 4.0 |
| グアテマラ エルインヘルト | 3.0 | 2.0 | 2.0 | 3.0 | 3.0 |
| インドネシア マンデリン エスペシャル | 4.0 | 1.0 | 3.0 | 2.0 | 3.0 |
酸味4.0・香り4.0|エチオピア アリーチャ ナチュラル、ブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラル
チャートの右上に来るのがこの2種です。エチオピア アリーチャ ナチュラルは、ジャスミンと桃。イルガチェフェ郡アリーチャ村の在来種を、アフリカンベッドでナチュラル精製した一杯です。酸味4.0に甘味4.0が並ぶので、氷で薄まっても味の芯が痩せません。
ブラジル フルッタ アナエロビック ナチュラルは、温度で表情が変わる豆。熱いうちは桃や赤い果実の香り、冷めるにつれてベリーや赤ワインのような豊かさが顔を出します。急冷式は熱い状態から一気に温度を落とす方式ですから、この変化がグラスの中で起こる。コク1.0・苦味1.0と軽いので、後味が重くなりません。
コクで選ぶ|グアテマラ エルインヘルト、インドネシア マンデリン エスペシャル
厚みのある一杯が好みなら、こちら。グアテマラ エルインヘルトはコク3.0で、酸味2.0。数値は控えめに見えますが、ウエウエテナンゴ県の農園が届けるのは、ほのかなワインのようなアロマと確かなボディ、そこへ乗る上質な酸味です。ボディが厚いのに酸が痩せていないので、氷が溶けても輪郭が残ります。
インドネシア マンデリン エスペシャルはコク4.0・苦味3.0、酸味は1.0。深く力強く、わずかにスパイシー。スマトラ式と呼ばれる二段階の精製が生む重さがあります。酸で輪郭を出すタイプではないぶん、氷を通しても骨格のほうが残ります。
焙煎機を二台またいだブレンド|ノボルドエスペシャル
一袋のなかで、二台の焙煎機が仕事を分けています。Probatが深煎りにした、厳選のブラジル・コロンビア・グアテマラ。そのブレンドが土台で、Loringが浅煎りにしたエチオピア アリーチャがわずかに入ります。深い側が軸なので、設定は湯150ml・85℃。その少量の浅煎りが香りに効いてくるのは、抽出液が氷に落ちた瞬間です。
銘柄ごとの向き不向きをもっと細かく見るなら、アイスコーヒーに合う豆の選び方(急冷式と水出し別)へ。
焙煎機で変わる、冷めたときの表情
同じ産地の豆でも、どの機械で焼いたかによって、冷えたあとに残るものが変わります。二台を使い分ける理由を、急冷式の目線で短く。
Probat UG22n|1971年製・冷めても残る厚み
1971年に生まれた、ドイツ Probat 社のヴィンテージ機です。分厚い鋳鉄のドラムが熱を溜め込み、遠赤外線が豆の芯まで火を通す。方式は伝導熱と対流熱の両方を使う半熱風式。重厚なコクと甘みが、この機体の持ち味です。氷が溶けて濃度が落ちてからも舌に残るのは、この厚みの部分。
Loring S35 Kestrel|四国唯一・煙を風味に回さない一台
2017年製、アメリカ Loring Smart Roast 社の一台。四国で導入しているのは当社だけです。中心にあるのが特許技術「Flavor-Lock Roast Process™」で、バーナーを一つだけ使い、焙煎と排煙の焼却を同時にこなすしくみ。煙が風味へ回り込むのを抑えるため、雑味の少ないクリアな仕上がりになります。
ドラム内で熱風を循環させる対流式焙煎は、これとは別の機構です。豆一粒ずつへ均一に熱を届け、焼きムラを抑える役目。このクリアな風味は、温度が下がっても濁りません。
よくある質問(FAQ)
Q:氷で薄くなってしまいます
A:先に氷の大きさを見直してください。同じ100gでも、小粒だと溶けるのが早い。それでも薄いなら、湯を10mlずつ減らします。粉を増やすより湯を絞るほうが、味の方向が変わりません。
Q:冷めたホットコーヒーとは何が違うのですか
A:温度の落ち方です。急冷式は抽出直後の液体を氷へ落とし、一気に下げます。常温に置いたコーヒーは下がりきるまでが長く、そのあいだに酸化が進む。同じ豆でも、口に残るものが変わります。
Q:まとめて作り置きできますか
A:急冷式は1杯ずつ数分で仕上げる方式なので、基本は都度淹れてください。まとめて作った場合は、冷蔵で2〜3日以内に。容器の選び方と日ごとの変化は水出しコーヒーの保存期間は2〜3日(容器の選び方と割り方アレンジ)をどうぞ。
Q:大量に作りたい日は
A:人数ぶんとなると、待てる日に水出しへ切り替えるほうが確実です。器具の候補は水出しコーヒーメーカーの選び方(ポットの方式とおすすめ5モデル)から選んでください。
Q:温度計がありません
A:沸かした湯を別の容器へ一度移すと、そのつど温度は下がります。ただし室温や器具によって下がり方が変わるため、何分で何℃とは言い切れません。85℃と90℃を淹れ分けたいなら、温度計があるほうが再現しやすくなります。
Q:ミルクで割れますか
A:割れます。濃いめに落としてあるぶん、ミルクを足しても輪郭が消えにくい。比率の目安や、そのほかの割り材は水出しコーヒーの保存期間は2〜3日(容器の選び方と割り方アレンジ)へ。
目的別|次に読む記事
- 水出しコーヒーの抽出時間は何時間?(8〜12時間と焙煎度別の目安)|冷水で仕込む日の基準値。8〜12時間の根拠はここに。
- アイスコーヒーに合う豆の選び方(急冷式と水出し別)|味の傾向から銘柄を決めたいときに。
- 水出しコーヒーの保存期間は2〜3日(容器の選び方と割り方アレンジ)|まとめて作った日の持たせ方と、ミルクや炭酸の比率。
- 水出しコーヒーメーカーの選び方(ポットの方式とおすすめ5モデル)|まとめて作る日のための器具選び。
数分の、儀式

湯を沸かす。粉を用意する。氷をサーバーへ落とす。ここまでで数分です。抽出液が落ちるたび、氷が身じろぎしてサーバーの中で座り直す。ガラスの外側がゆっくり曇っていく数十秒を、ただ見ている。
待つ時間がないから急冷式を選んだはずなのに、その数分はなぜか長く感じます。一杯を淹れるあいだだけ、手元の速度が落ちる。夏の午後に持てる余白としては、これで十分な気もします。
今日の設定は、粉20g、湯は130mlか150ml、氷は100gか120g。決めたらあとは、氷の音を聞くだけ。
NOVOLDの豆を焙煎するのは、三代目代表・櫻井健司。コーヒーインストラクター1級、アドバンスドコーヒーマイスターの資格を持ち、自らが毎日焙煎現場に立つ「焙煎する社長」です。1971年製ヴィンテージのProbatは手動操作が中心。豆の匂い、煙の色、ドラムの音──五感を駆使してその日の最適点を探る作業は、データだけでは測れない経験の領域です。機械と人の対話から生まれる一杯を、徳島の焙煎所からお届けします。








